注:この記事はあくまで「筆者はこう考えている」という意見の表明であって、読者に対して正しい答えを教えるものではありません。
パターンメイキング工房『オーヴ・モードスタジオ』代表 フリーパタンナー/モデリストのコバヤシ_トシヒコです。
今回はパターンにおける品質の良さ「よいパターン」とはどのようなものか?について、私の考えを記事にまとめました。
前提を確認:そもそもパターンとは?
パターン(型紙)とは、生地を使って衣服等を生産する場合の、生地の裁断型です。
よって、生地を使わない場合や裁断を必要としない場合は今回は含みません。
また、1人の人に合わせた1点ものについては、フィッティングでその人の体に直接生地を当てて裁断した方が早い場合もあるので、1点もののアイテムを作る場合も今回は含みません。
最低でも2点以上の量産を前提とした工業パターン(量産用パターン)であることを、今回のテーマの前提とします。
なぜ「よい」と平仮名で表現したのか
「よい」と平仮名で表現した理由は、「良い」と「善い」の両方の意味を込めたかったからです。
なので「よい」は、英語で表現するなら「good:グッド」や「possitive:ポジティブ」と、シンプルに捉えていただければと思います。
前置きが長くなりました。ここから本題に入ります。
結果から逆算する
以上の前提を元に、プロフェッショナルクオリティーな「よいパターン」とはどのようなものか?を言語化する方法として今回は、結果から逆算するという方法をとってみたいと思います。
つまり「よいパターンとはどのようなものか?」ではなく「よいパターンによってもたらされる結果はどのようなものか?」ということです。
「よいパターン」によってもたらされる結果は?
では「よいパターン」によってもたらされる結果は、どのようなものだと思いますか?
私の答えは「パターンの発注者」「そのパターンを使って生産された商品を購入・着用する消費者」「そのパターンを使う生産者」その全てに喜びがもたらされるもの、です。
今回の場合、商品の仕入担当者や販売担当者はパターンの発注者に含まれているものとしています。
また、ファクトリーブランドのような場合はパターンの発注者とそのパターンを使う生産者とを兼ねている場合もあるでしょう。
それぞれの立場の人たちに喜んでもらえるパターンとは?
では、上記それぞれの立場の人たちに喜んでもらえるパターンとは、どのようなものでしょうか?
それは「審美性、機能性、生産性の3つを兼ね備えた工業パターン」だというのが、私の考えです。
この考えについては前回のパターン発注に関する記事の、品質に関する項目でも触れた通りです。
また、このことは当WEBサイトのPHILOSOPHYのページでも記載しています。
そのページから一部を引用するような形で、それぞれを詳しく説明してみます。
審美性
美しさは「普遍的で客観的な美しさ」「その時々の流行(時代性)によって変わる一時的な美しさ」「受け手によって変わる主観的な美しさ」の3つに分けられると思います。
これら3つの美しさを統合した言葉として、ここでは審美性という表現を使っています。
時代性をも反映させた高い審美性を実現するパターンは、全ての人に喜びをもたらします。
また審美性は、それぞれの立場の人がそれぞれの立場から論じることが可能な要素でもあります。
機能性
機能性は着用者だけで判断される主観的な要素です。
子ども服などがわかりやすい例と思いますが、パターンを発注するデザイナーなどの企画担当者がその商品のターゲットではない(着られない)ので、着心地などの機能面を直接確認できないということは普通にありえます。
なので審美性とは違い、機能性については企画担当者では判断できない場合があります。
パタンナーの経験値や、着用者とのコミュニケーション能力が問われるところです。
永く快適な使い心地を実現する機能性の高さは、そのパターンを使って生産された商品を購入・着用する消費者に快適さという喜びをもたらします。
生産性
素材特性と縫製工程が考慮された工業パターンは縫製がしやすいため、生産効率を向上させるとともに不良品率を低減させます。製品の審美性にバラつきなく好影響を与えるため、その売れ行きにも影響を与えます。
縫製手順がわかるように作られた工業パターンは、生産者が縫製手順を考える負担が軽減されるので、生産に余裕が生まれ、生産者はより質の向上に注力できます。生産に余裕の持てるパターンが供給される状態が継続されれば、供給者と生産者との間に信頼関係が構築され、安心して生産に取り組んでもらうことができるようになります。これらのメリットをもたらすのが、生産性の高い工業パターンです。
生産性の高い工業パターンは、パターンの発注者、そのパターンを使って生産された商品を購入・着用する消費者、そのパターンを使う生産者、その全てに喜びをもたらします。
喜び=ポジティブな印象と感情
審美性の高さは説明するまでもなく、すべての人に対してポジティブな印象を喚起します。
機能性の高さは、そのパターンを使って生産された商品を購入・着用する消費者に快適さというポジティブな感情を呼び起こします。
生産性の高い工業パターンが継続的に供給されることは
- 高品質な製品の安定した量産を可能にするため、「パターンの発注者」「そのパターンを使って生産された商品を購入・着用する消費者」「そのパターンを使う生産者」の全てに喜びがもたらされます。
- パターンの発注者には、そのパターンを使う生産者との間に信頼関係を構築し、双方をポジティブな気持ちにさせます。
- そのパターンを使う生産者には、生産性が向上することで余裕が生まれてより質の向上に注力できるようになります。その相乗効果で、質の高い製品を効率的に生産できる状態が継続されれば、自信につながります。自信と余裕を持って仕事に取り組めるので、仕事そのものから喜びがもたらされます。
これらが私が考える、プロフェッショナルクオリティーな「よいパターン」が提供する価値であり、この正の連鎖を持続的に循環させていくことを目標にしています。
「よいパターン」かどうかは事前に確認できない
以上のことから、多くの商品・サービスと同様、パターンの品質を構成する要素の全てを事前に確認することはできません。
なので、作品ポートフォリオや過去の実績・評価(レビュー)などから総合的に判断することになります。
当WEBサイトでは、WORKSのページなどでその判断材料となる多くの資料を公開しておりますが、ほかに非公開のポートフォリオの用意もございます。
下記 URLのフォームにご回答いただくことで、メールにてお届けしております。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdOFJ_WILuuFzhA0Gsb7NWLSgtQENcr60wiE7yKlF2CRHeMWQ/viewform
※補足
今回、製品の耐久性については機能性に含まれているものとしました。
(滑脱しやすい生地に対して縫い代を広くとる、など)
また、補正(お直し)のしやすさは今回のテーマから外しました。
確かにパターンは補正のしやすさに影響を与えますが、補正が必要ということはその商品と消費者とがマッチしていない(ターゲットではない)と考えられるからです。
「市場に自分に合った服がない」という方には、パターンオーダーやフルオーダーのご利用をオススメします。
あとがき
私が前職の会社員時代、出張先の中国縫製工場の担当者から言われた以下のひとことが、私がフリーランスとして独立するきっかけのひとつになっています。
「あなたの仕事は完璧です」
縫製工場の担当者がこのようなことを発言するのには、リスクが伴います。
なぜなら、もし製品品質で何らかの問題が発生した時にこのような発言をしていると、パタンナーの責任にすることができず、全て工場が責任を負うことになるからです。
また、この発言は完璧ではない仕事をしているパタンナーが存在していることも意味しています。
同じプロでありながら、それらのパタンナーと私との違いはおそらく、ただ型紙を作ることだけが仕事だと考えているパタンナーなのか、それとも服作りのプロセス全体を俯瞰したプロフェッショナルの視点から「よい製品をつくるために」よいパターンをつくるモデリストなのか、という違いだと思います。
それはプロ意識の差であり、自覚している「責任の幅」の差なのだと、私は考えています。
当方とお取引いただくことが、費用対効果の高い投資となることをお約束いたします。
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