パターンメイキング工房『オーヴ・モードスタジオ』代表 フリーパタンナー/モードエンジニアのコバヤシ_トシヒコです。
今回の記事ではメンズとレディースでの体型の違いと、その影響によるパターンの違い、そして体型の違いを考慮せずにパターンを作成するとどのような問題が生じるのか?について解説します。
「メンズライクなレディースアイテム」「レディースライクなメンズアイテム」といった、複雑なニュアンスのパターンを引くためのヒントにもなっていますので、ぜひご覧ください。
注:この記事はあくまで「筆者はこう考えている」という意見の表明であって、読者に対して正しい答えを教えるものではありません。
メンズとレディース、パターン作成依頼のご相談時によくある質問
パターン作成のご相談をいただく中で、私に対してよくある質問の中に「メンズとレディース、どちらのパターンが得意ですか?」というものがあります。
個人的には違いはないと思っているのですが、専門学校を卒業後はメンズスーツのメーカーに就職するなど、パタンナーとしてのキャリア全体を俯瞰した上で違和感が生じにくいよう「(どちらかと言えば)メンズのほうが得意です」とお答えすることがよくあります。
ですがそう答えるとなぜか「レディースは苦手」と、頭の中で自動的に変換される方が少なからずいらっしゃいました。
単純に「過去に出会ったメンズが得意なパタンナーさんが、レディースのパターンが苦手だったから」なのかもしれませんが、それ以外にも、そう思われる理由の1つと考えられる仮説が浮かびました。
それは、「レディースが得意なパタンナーは、メンズのパターンが苦手だから」ではないかというものです。
そう思った理由は、メンズアイテムのパターン作成のご依頼をいただいたお客さまから送られた参考パターンデータが、メンズアイテムのパターンであるにも関わらずメンズのパターンとしての体を成しておらず、レディースのパターンをメンズサイズに大きくしただけのような状態だったからです。
メンズには正解があり、レディースには正解がない
メンズアイテムの中でも特にスーツに準じるテーラードジャケットのようなアイテムには、明確な正解があります。
より正確には「こうなっていたら正解ではない」という状態があり、それぞれの状態には名前が付けられています。
一部を例示すると
- 襟抜け
- 抱き落ち
- たすき
などです。それぞれがどのような状態を示しているのかは、ぜひ検索して調べてみてください。
これらの状態はレディースでもキャリアスーツのようなアイテムであれば、メンズと同様に問題視されることがあります。
それ以外のアイテムであれば、レディースなら多くの場合はポジティブな印象として受け止める事は可能です。
しかしメンズの場合は、ごく一部の若い男性向けを除いて、ネガティブな印象を与えるリスクがあります。
少し前に、中年男性がパーカーを着ることの是非が話題になったことがありましたが、そもそも男性がカジュアルな装いをすること自体こころよく思わない方もいらっしゃいます。
そして、レディースが得意なパタンナーが作ったメンズアイテムのパターンは、カジュアルアイテムでなくても必要以上のカジュアルダウンによってネガティブな印象を与えることがあります。
体型の違いを考慮せずにパターンを作成すると、どのような問題が生じるのか
そんな一例として今回は、
- 横から見た男性と女性の体型を比較し
- その体型に合った原型パターンを着せ
- 大きさの調整を行った上で着せる原型パターンを入れ替える
ことで、どのような問題が発生するのかを解説します。
男性と女性、横から見た体型を比較
まずはアパレル用3D CADのCLO3Dで、男性と女性の標準的なサイズのアバターをそれぞれ用意。
女性アバターは9号サイズ、男性アバターはA5サイズとなるよう調整しています。
それぞれのアバターに合った原型パターンを着せ付け
そして、当方でパターン作成時に使用している原型パターンを、着せ付けるアバター用に微調整した上で着せ付けます。今回はバストダーツとショルダーダーツだけを畳んだボックスシルエットとしています。
さらに、単純な長方形パターンで首に自然にフィットしたスタンドカラー(立ち襟)も追加しました。
原型パターンが不自然なシワ等がなくアバターにフィットしていることと、裾がウエスト位置で傾斜することなく一直線になっているのをご確認ください。
メンズとレディースの原型パターンを比較
次に、メンズとレディースそれぞれのアバターに着せた原型パターンを比較します。
Tシャツなどカットソー系のトップスアイテムは、サイドネック(肩線の首側先)から裾までの距離を「身丈」と呼び、生地に伸縮性があることなどを理由に前身頃と後身頃で身丈に差をつけないのが一般的です。
今回は伸縮性のない布帛(織り物)生地を使用することを前提として、それぞれの体型に合わせて前身頃と後身頃で身丈に差をつけています。
ここからは表現を簡略化するため、前身頃の身丈を「前身丈」後身頃の身丈を「後身丈」と呼びます。
脇で付き合わせて補助線を引いた原型パターン画像の通り、メンズの原型パターンは前身丈よりも後身丈のほうが長く、レディースの原型パターンは前身丈よりも後身丈が短くなっているのがわかります。
女性には胸に厚みがあり、男性には肩に厚みがあるという、体型の違いがパターンの違いとして反映されている一例です。
大きさだけを調整して、着せ付ける原型パターンを入れ替え
続いて、原型パターンの大きさだけを調整して、着せつけるアバターを逆にします。
今回はメンズの原型パターンを10%縮小し、レディースの原型パターンを10%拡大しています。
男女を入れ替えると、裾線が傾斜する
それぞれの原型パターンを入れ替えて、襟が自然に首に沿うようにアバターに着せ付けました。
その状態を横から見ると、男性アバターは原型パターンの裾が前で下がって後ろで上がり、女性アバターは原型パターンの裾が前で上がって後ろで下がり、傾斜しているのがわかります。
メンズでは襟抜けが発生し、レディースは襟の歪みが発生する
裾が傾斜せず一直線となるよう着せ方を調整します。そうすると、その影響は首元に現れます。
男性アバターでは襟が後ろの首元に沿わずに離れている「襟抜け」が発生しています。
女性アバターでは襟の前が余って、後ろで伸ばされてゆがんでいます。
伸縮性のない実物の生地を使用した場合は、襟付け下の身頃に「ツキジワ」と呼ばれる余りジワが発生する状態です。
このように、メンズとレディースの原型パターンを入れ替えて大きさを調整するだけでは複数の問題が発生します。
正解に対する知識、正解を出せる技術
レディースのパターンをメンズサイズに大きくしただけでは問題が発生することがあり、それは逆も然りです。
また、メンズであれば問題視されてもレディースでは問題にならないということもあるでしょう。
その意味で、多くのレディースアイテムのパターンには正解はありません。
しかし、正解がある問いに対してすら正解を出せない者が、正解のない問いに対して正解を出すことができるのでしょうか?
正解に対する知識があり、正解を出せる技術力があること。
その上で、そのできることをやるかやらないかを選択する。
そのようなプロセスを辿ったほうが、より俯瞰した広い視野から選び取った、深く説得力のあるパターンを完成させることができるのではないでしょうか。
俯瞰した広い視野から選び取った、深く説得力のある「よいパターン」をお求めなら、オーヴ・モードスタジオにお任せください
いかがだったでしょうか。当方ではメンズにレディース、キッズその他幅広いアイテムのパターン作成に対応しています。
さらにはもっと複雑な「メンズライクなレディースアイテム」「レディースライクなメンズアイテム」のパターン作成も、お任せいただくことが可能です。
今回はメンズとレディースというテーマでしたが、アイテム単位の話であれば、得意なアイテムを聞かれて「シャツやカットソーなどの中・軽衣料」と答えるパタンナーは重衣料は苦手で、「ジャケットやコートなどの重衣料」と答えるパタンナーには苦手なアイテムは無いと思います。
このあたりの話は、また別の機会に記事を作成します。
正解に対する知識を持つ俯瞰した広い視野から選び取った、深く説得力のある「よいパターン」をお求めなら、ぜひ一度ご相談ください。
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