パターンメイキング工房『オーヴ・モードスタジオ』代表 フリーパタンナー/モードエンジニアのコバヤシ_トシヒコです。
今回の記事ではパターンナーを雇用する場合と外注する場合、それぞれのメリットとデメリットについて
- コスト構造の違い(変動費か固定費か)
- 企業にとっての永続的な無形資産になるかどうか(著作権の帰属先)
という観点から解説します。
注:この記事はあくまで「筆者はこう考えている」という意見の表明であって、読者に対して正しい答えを教えるものではありません。
オリジナル商品を開発するなら、パターンナーからパターンを調達する必要がある
オリジナルデザインのアパレル商品を開発する場合、そのデザインを実現するためのパターン(型紙)をパターンナーに依頼して調達する必要があります。
なぜなら商社やOEM会社、縫製工場などにパターン作成まで丸投げした場合、同じパターンを他社商品にも使い回されて、そのデザインがオリジナルではなくなってしまうリスクがあるからです。
実際に当方でも「他社の使い回しでいいから、パターン代金を安くしてくれないか?」と持ちかけられたことがあります。
これは、パターンナーに直接依頼する場合でもその代金が安価な場合は、他社でも使用しているパターンを流用される可能性があることを示唆しています。
このあたりの詳しい話については、下記のブログ記事をご参照ください。
▼外注パターン依頼の料金相場と、服作りのコスト優先に潜むリスク
https://www.orvmodestudio.com/2024/08/16/pattern-cost-and-risk/

変動費か固定費か
パターンナーはフリーランスやパターン会社に所属するパターンナーに外注してその費用を変動費とするか、自社でパターンナーを雇用して人件費(固定費)とするかの違いがあります。
変動費(外注費)
フリーランス、パターン外注会社
外注する場合はパターンナーを雇用しているわけではないので、委託者側の社会保障費負担は不要となります。
クラウドソーシングを利用する場合も、こちらに該当します。
固定費(人件費)
人件費はその雇用形態によって、短期固定費と長期固定費に分けられます。
短期固定費
アルバイト、契約社員
自社でアルバイトや契約社員を雇用する場合は数ヶ月から1年の短期固定費が発生し、人件費に加えて雇用主による社会保障費負担が必要です。
業務委託(個人事業主)
個人事業主への業務委託の場合も数ヶ月から1年の短期固定費が発生しますが、雇用しているわけではないため委託者側の社会保障費負担は不要です。
長期固定費
正社員
自社で正社員を雇用する場合は社員が退職を申し出るまで、または社員が定年を迎えるまでの長期固定費が発生し、人件費と共に雇用主による社会保障費負担も必要です。
著作権の帰属先
次に、調達したパターンの著作権の帰属先という観点から、パターン調達先それぞれの違いを見ていきます。
権利には責任が伴い、権利を放棄することは責任を放棄することでもあります。
そのような前提を念頭に置きながら、読み進めてみてください。
受託者に帰属
フリーランス、パターン外注会社
フリーランスやパターン外注会社などパターン作成を外注する場合は、作成されたパターンの著作権は外注先(受託者)に帰属します。
よく「デザイナーがデザインしたアイテムのパターンの著作権は、自動的にデザイナーに帰属する」と誤解されている方がいらっしゃいますが、「デザインの著作権」と「パターンの著作権」は違います。
デザインの著作権はデザイナーに帰属し、パターンの著作権はパターンナーに帰属します。
また、著作権はあくまで著作物に対して発生するものであり、デザインアイデアなどの著作物が存在しないものに対しては、著作権は発生しません。
雇用主(法人・会社)に帰属
アルバイト、契約社員、正社員
会社に雇用されている立場にあるアルバイト、契約社員、正社員によって内製されたパターンの著作権は雇用主である会社に帰属します。
これはパターンナーによって作成されたパターンだけでなく、デザイナーによるデザインでも同様です。
帰属先は契約内容による
業務委託(個人事業主)
個人事業主への業務委託の場合は、パターンの著作権の帰属先は契約内容によって異なります。
著作権を受託者側に帰属する契約とした場合には特に問題はありませんが、著作権が委託者側に帰属する契約とした場合は実質的に雇用しているとみなされて、受託者の社会保障費も委託者側が負担しなければならなくなる可能性があります。
当方と取引する3つのメリット
パターンナーのマーケットセグメンテーションという観点からは、当方との取引には
- コストメリット
- 著作権帰属先の選択自由度
- 安定した継続取り引き
という、3つのメリットがあります。
1.コストメリット
当方はフリーランスのため、委託者側であるお客さまに社会保障費負担というコストは発生しません。
また、当方との取引費用は人件費という固定費ではなく、外注費という変動費です。
必要なときに必要なだけ利用することが可能なため、パターン作成業務が継続して発生するわけではない場合には特にコストを抑えることができます。
そのほかにも展示会用にまとまったボリュームのパターン作成を依頼する場合などは、事前に申請すればその費用の何割かを経営支援を目的とした各種補助金で賄える可能性があります。
2.著作権帰属先の選択自由度
服を着る人体そのものに大きな変化がない限り、よいパターンデータは理論上、永久に劣化することのない資産です。
トレンドの影響を受けて陳腐化するリスクの低い、定番アイテムのパターンデータであれば特に。
だからこそ、パターンの著作権を自社で保有しておきたいと思うこともあるはずです。
成果物の著作権は受託者である当方に帰属しますが、当方で作成したパターンその他の成果物の著作権を、当方から買いとることは可能です。
(代金は成果物作成費用の3倍)
長期的に考えて「このパターンの著作権は自社で保有しておきたい」というものがあれば、個別に著作権を当方から買いとることで100%内製する場合よりも費用を抑えることが可能です。
3.安定した継続取り引き
雇用を伴わないパターン外注会社やクラウドソーシングを利用するデメリットとして、同じ担当者にリピート注文できない場合があることが挙げられます。
クラウドソーシングを利用した場合
クラウドソーシングで仕事を受注しているフリーランスの多くは匿名で活動をしており、その活動はなんの前触れもなく突然停止されることがあります。
同じ人にリピート注文をしたいと思っても、音信不通で連絡が取れず、また別の人を探さないといけなくなることがあります。
実際に当方へご相談をいただくお客さまの中にも、そのような経緯があって当方にパターン作成をご依頼くださる方がいらっしゃいます。
パターン外注会社を利用した場合
パターン外注会社では、受注窓口となる営業担当と実際にパターンを作成するパターンナーはほとんどの場合は別人であり、同じ営業担当にリピート注文しても次にパターンを作成するパターンナーは前回とは別人、ということもあります。
そのため、一定のクオリティを維持しながら安定した取引を継続的に行うことは困難です。
オーヴ・モードスタジオなら安定した継続取り引きが可能
当方では注文を受ける窓口と実際にパターン作成を行うこと、営業としての業務とパターンナーとしての業務の両方を1人で行うことを、多様なITツールを活用して業務効率を向上させることで実現しています。
そのため、フリーランスでありながら安定した継続的な取り引きを行うことが可能です。
前例や慣習に囚われず、客観的な選択を
今回は【外注か雇用か】という選択肢の違いを、マーケットセグメンテーションという観点から論じてみました。
他社の事例や過去の前例、慣れきった方法によって選択することは思考を伴わず楽なものですが、変化することが常態化した現代においても有用な方法であるかは疑問です。
かといって客観的な方法で選択しようとすると、価格という具体的でわかりやすい数値だけで判断して他の要素を見落としてしまいがちです。
当方では価格以外にも指標を提示することで、前例や慣習に囚われない客観的な視点からパターンナーとの付き合い方を選択できるような情報をまとめています。
▼【アパレルパターン作成依頼】比較・検討チェックリスト
https://www.orvmodestudio.com/2024/05/05/apparel-pattern-making-order/

それぞれの状況に合わせて、お役立てください。
もしスマートフォンをご利用ならLINE登録を
見積もり依頼、お問い合わせ、ご相談はLINEまたは下記ボタンのコンタクトフォームよりお願いいたします。